オープンデータ法倫理

オープンデータ利用サービス開発における法的責任:データ誤り、利用規約違反、派生著作物の論点

Tags: オープンデータ, 法的責任, サービス開発, 利用規約, 著作権, データ誤り, プライバシー

はじめに

官民データ活用推進基本法の制定以降、国、地方公共団体、事業者の保有するデータが積極的にオープンデータとして公開され、これを活用した新たなサービス開発が進められています。オープンデータは、社会課題の解決や経済活性化に貢献する重要な基盤となり得ますが、その利用にあたっては様々な法的課題が発生する可能性があります。特に、オープンデータを利用してサービスを開発・提供する事業者は、データ自体の品質、利用条件、および派生的に生じる著作権等に関連する法的責任について深く理解しておく必要があります。本稿では、オープンデータ利用サービス開発における主要な法的責任論点について、弁護士の視点から解説いたします。

オープンデータのデータ誤り・不正確性に対する責任

オープンデータが公開されている場合でも、そのデータに誤りや不正確性が含まれている可能性があります。サービス開発者がかかるデータをそのまま利用し、結果としてサービス利用者や第三者に損害が生じた場合、サービス開発者はどのような法的責任を負うのでしょうか。

多くのオープンデータ提供者は、データ利用規約において、データの正確性、完全性、有用性等についていかなる保証も行わない旨、およびデータの利用によって生じた損害について一切の責任を負わない旨を定めていることが一般的です。公的機関によるデータ提供の場合は、国家賠償法や地方自治法上の責任が問題となる可能性もゼロではありませんが、データ公開という行為自体が「公権力の行使」に当たるか、またデータに誤りがあることが違法な行為といえるかなど、争点となり得ます。提供者が私的事業者である場合は、契約責任や不法行為責任が問われる可能性もありますが、いずれもデータ利用規約による免責条項の有効性が大きな論点となります。

サービス開発者としては、提供者に対する責任追及が困難であることを前提に、データ利用前の十分な検証や、データに起因する可能性のある不具合やリスクに関するサービス利用者への適切な情報提供・免責条項の設定等の対策を講じることが重要となります。サービス利用者や第三者に対する関係では、サービス開発者は、サービス提供契約に基づき債務不履行責任を問われる可能性や、不法行為責任(民法第709条)を問われる可能性があります。例えば、データ誤りを認識しながら、または容易に認識できたにもかかわらず、適切な措置をとらずにサービス提供を継続し、損害が生じた場合などには、過失が認められる可能性があります。サービス提供契約における適切な免責範囲の設定や、注意書きの明示等によるリスクヘッジが不可欠です。

オープンデータライセンス・利用規約違反

オープンデータの多くは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)等のオープンライセンスや、独自の利用規約に基づいて提供されています。これらのライセンスや利用規約は、データの利用条件(例:帰属表示の要否、改変の可否、派生著作物の公開方法等)を定めており、サービス開発者はこれらを遵守する義務を負います。

ライセンスや利用規約に違反した場合、データ提供者はサービス開発者に対して、ライセンス違反に基づく差止請求や損害賠償請求を行うことが考えられます。特に、CCライセンスのバージョン3.0以前では、ライセンス条項に違反した場合にライセンスが自動的に終了すると規定されており、その後もデータを継続利用すると著作権侵害となるリスクがありました。バージョン4.0では、違反後30日以内に是正すればライセンスが有効に継続するとの規定が盛り込まれていますが、是正がなされない場合はやはりライセンスが失効します。

サービス開発者は、利用するオープンデータのライセンスや利用規約の内容を十分に確認し、定められた利用条件を遵守する徹底的な管理体制を構築する必要があります。複数のデータを組み合わせて利用する場合には、それぞれのライセンスの互換性も確認しなければなりません。例えば、SA(継承)条項を持つライセンスのデータと、SA条項のないライセンスのデータを組み合わせて利用する場合、派生著作物をSA条項付きライセンスで公開することが求められるため、利用範囲に制約が生じる可能性があります。

派生著作物・データベースの著作権

オープンデータを利用して開発されたサービスや、サービス内で生成・表示されるコンテンツが、著作権法上の保護対象となる「著作物」や「データベースの著作物」に該当する場合、その著作権の帰属や利用許諾が論点となります。

例えば、オープンデータを加工・編集して新たな表現を加えた場合には、その加工・編集物が二次的著作物として保護される可能性があります。また、オープンデータを体系的に整理・構成して容易に検索できるようにしたデータベースは、編集著作物またはデータベースの著作物として保護される可能性があります。これらの著作権は、原則としてサービス開発者に帰属します。

しかし、利用したオープンデータが著作物である場合、その二次的著作物の利用については原著作権者の許諾が必要です。オープンライセンスは、通常、二次的著作物の作成や利用(頒布、公衆送信等)を許諾していますが、特定の条件(例:帰属表示、同一条件での公開(SA条項))を課しています。サービス開発者は、これらの条件を遵守して二次的著作物やデータベースを利用・公開する必要があります。特にSA条項が付いている場合、サービス内で公開する派生著作物等も同じライセンス条件で提供しなければならない可能性があり、ビジネスモデルに影響を与えることがあります。

また、著作権法上の保護を受けない単なるデータであっても、提供者がデータの収集・蓄積に多大な投資を行っている場合、不正競争防止法上の「限定提供データ」として保護される可能性もあります(不正競争防止法第2条第1項第20号)。オープンデータとして公開されているデータがこれに該当するかは稀ですが、関連するデータとの組み合わせによっては留意が必要な場合も想定されます。

その他の関連論点

結論

オープンデータを利用したサービス開発は大きな可能性を秘めていますが、同時に複数の法的課題を伴います。サービス開発者は、利用するデータの正確性に関するリスクを理解し、提供者の免責条項の有効性を踏まえたリスク管理を行う必要があります。また、オープンデータライセンスや利用規約の内容を正確に理解し、その条件を厳格に遵守することが不可欠です。さらに、自らが開発したサービスやコンテンツに生じる著作権や、利用したデータの著作権等との関係性についても十分に検討しなければなりません。プライバシーや競争法等、関連する他の法令にも配慮が必要です。これらの法的リスクを適切に管理し、サービスを適法に展開するためには、オープンデータ法倫理に関する専門的な知見に基づいた慎重な対応が求められます。