オープンデータ法倫理

オープンデータライセンスの法的性質と利用規約遵守の論点:弁護士のための解説

Tags: オープンデータ, ライセンス, 著作権, 利用規約, 法的遵守

はじめに

近年、国、地方公共団体、事業者等から様々なデータがオープンデータとして公開され、その利活用が促進されています。オープンデータは公共の利益増進、経済活性化、行政の効率化等に資する potent な資源となり得ますが、その利用にあたっては、データの利用条件を示す「オープンデータライセンス」の理解と遵守が不可欠です。

オープンデータライセンスは、著作権法をはじめとする既存の法体系と密接に関連しており、その解釈や遵守を巡っては複雑な法的論点が生じ得ます。弁護士としては、クライアントがオープンデータを適法かつ適切に利用できるよう、これらのライセンスの法的性質、具体的な条項の内容、そして違反した場合のリスクについて、体系的に理解しておく必要があります。

本稿では、オープンデータライセンスの種類とその法的位置づけを確認した上で、特に実務上問題となりやすい利用規約遵守に関する具体的な論点について解説します。

オープンデータライセンスの多様性と法的性質

オープンデータとして公開されるデータには、文化庁の「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)」をはじめ、様々な種類のライセンスが付与されています。代表的なものとしては、政府標準利用規約、CCライセンス、パブリックドメインに類するものなどが挙げられます。

これらのライセンスは、一般に著作権法上の「利用許諾」としての性質を持つと解されています。著作権者は、自己の著作物について、著作権法が定める各種の権利(複製権、翻案権、公衆送信権等)を有しており、第三者がこれら権利に係る行為を行うためには、原則として著作権者の許諾を得る必要があります。オープンデータライセンスは、この許諾を、特定の条件(利用規約)のもとで不特定多数の者に対して包括的に与えるものと位置づけられます。

したがって、オープンデータライセンスで定められた利用条件に違反してデータを利用する行為は、著作権者の許諾の範囲を超える行為として、著作権侵害を構成する可能性があります。また、ライセンスは一種の契約(利用規約への同意)と解される場合もあり、契約違反の問題も生じ得ます。

利用規約(ライセンス)遵守の具体的な論点

オープンデータライセンスの遵守を巡る実務上の論点は多岐にわたりますが、特に重要なものを以下に示します。

1. 帰属表示(クレジット表示)の義務

多くのオープンデータライセンス、特にCCライセンスの「BY」(Attribution, 帰属表示)条項を含むものや政府標準利用規約では、データの利用者に原著作者(データ提供者)の氏名や名称、提供元サイトのURLなどを表示する義務を課しています。この帰属表示の方法や場所について、ライセンスは具体的な要件を定めている場合があります。例えば、表示すべき情報、表示の場所(データ近傍、奥付、ウェブサイト上など)、表示の形式等が指定されていることがあります。これらの要件を満たさない帰属表示は、ライセンス違反と判断される可能性があります。

2. 派生著作物の作成・公開に関する制限

CCライセンスの「SA」(Share Alike, 継承)条項を含むものや、データの改変・編集について別途制限を設けているライセンスが存在します。SA条項が付されたデータを改変して生成した新たな著作物(派生著作物)を公開する場合には、元のデータに付与されていたライセンスと同じ種類のライセンスを適用して公開する義務が生じます。また、特定のライセンスでは、データの改変自体を禁止している場合もあります。利用者がどのような形でデータを利用・加工し、その結果を公開するかによって、遵守すべき条件が変わるため、ライセンス条項の正確な理解が求められます。

3. 非営利利用限定の条項

CCライセンスの「NC」(NonCommercial, 非営利)条項のように、データの利用を非営利目的に限定するライセンスも存在します。この「非営利」の範囲の解釈は、しばしば困難を伴います。例えば、企業が営利活動の中でデータを利用する行為(ウェブサイトでの情報提供、サービスの改善等)が「非営利」に該当するか否かは、個別のケースによって判断が分かれうるため、慎重な検討が必要です。営利目的での利用が禁止されているデータを、営利目的で利用した場合、明らかにライセンス違反となります。

4. 免責条項、保証の限定

オープンデータライセンスには、データ提供者側がデータの正確性や完全性、特定の目的への適合性について一切保証しない旨の免責条項や、提供者の責任の範囲を限定する条項が含まれていることが一般的です。これは、提供者が膨大なデータを無償で公開するにあたり、過大な責任を負わないようにするための措置です。利用者は、これらの免責・限定条項を理解し、データの利用によって生じうるリスク(例:データの誤りに起因する損害)を自身で負担することを認識しておく必要があります。弁護士としては、クライアントに対し、データの利用に先立ち、内容の確認や独自調査の実施を助言することが重要です。

5. 異なるライセンスのデータの組み合わせ(ライセンス互換性)

複数のオープンデータを組み合わせて新たなサービスやコンテンツを作成する場合、異なるライセンス間で「互換性」がないと、ライセンス違反なく組み合わせた成果物を公開できない場合があります。例えば、SA条項を含むライセンスと、SA条項を含まない、あるいは異なるSA条項を持つライセンスのデータを単純に組み合わせることは、多くの場合困難です。各ライセンスの条項を詳細に検討し、組み合わせた結果に適用すべきライセンスが明確に定まるか、矛盾が生じないかを確認する必要があります。

ライセンス違反の法的リスク

オープンデータライセンスで定められた利用条件に違反した場合、利用者は以下のような法的リスクに直面する可能性があります。

弁護士がクライアントに助言する際の留意点

弁護士がオープンデータに関するクライアントからの相談に対応する際には、以下の点を留意することが推奨されます。

結論

オープンデータは社会の活性化に不可欠な資源ですが、その利用はオープンデータライセンスという法的枠組みの中で行われる必要があります。弁護士としては、クライアントがオープンデータを安全かつ適法に利用できるよう、多様なライセンスの法的性質を理解し、帰属表示、改変・派生、営利/非営利、免責、互換性といった具体的な遵守論点について的確な助言を行うことが求められます。

オープンデータライセンスに関する法的な議論や解釈は今後も進化していく可能性があり、最新の動向を継続的に注視していくことが重要です。本稿が、弁護士の皆様のオープンデータに関する実務の一助となれば幸いです。