オープンデータ法倫理

官民データ活用推進基本法にみるオープンデータ推進義務と法的課題

Tags: 官民データ活用推進基本法, オープンデータ, 公共データ, データ利活用, 法令解説, 弁護士実務

官民データ活用推進基本法とオープンデータ推進

オープンデータは、公共部門が保有するデータを国民が自由に利用できるよう公開することで、新たなサービス創出や行政の透明性向上に資すると期待されています。日本においては、2016年に施行された官民データ活用推進基本法(以下「基本法」)が、このオープンデータ推進の法的基盤となっています。本法は、国及び地方公共団体に対し、その保有するデータの公開・活用促進に関する責務を課しており、弁護士が公共機関や関連事業者からの相談に対応する上で、その内容と関連する法的課題を理解することは不可欠です。

基本法におけるオープンデータ推進の概要

基本法は、官民データの効果的な活用を促進し、国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています。その基本原則の一つとして、「公共データの適時適切な提供、利用のための環境整備」(第3条第2号)が掲げられており、これがオープンデータの推進に直接関わります。

具体的には、国は、その保有する公共データを国民が容易に利用できるよう、データ公開に関する施策を推進する責務を有します(第8条)。地方公共団体についても、その保有する公共データの公開・活用促進について、国の施策に準じて施策を講ずる努力義務が課されています(第9条)。

基本法においては、単なるデータ公開に留まらず、「二次利用可能な形での提供」が重視されています。これは、オープンデータとして公開されるデータが、機械判読に適した形式で、かつ、利用規約によって二次利用(複製、改変、頒布等)が許可されている状態であることを意味します。特に、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスなどの標準的なライセンス形態の活用が推奨されています。

オープンデータ推進における法的義務・努力義務

基本法は、国に対しては「責務」を、地方公共団体に対しては「努力義務」を課していますが、これは法的拘束力の度合いに違いがあることを示唆しています。ただし、地方公共団体においても、基本法の趣旨を踏まえ、オープンデータに関する条例を制定する動きが見られます。このような条例においては、より具体的な公開対象データの範囲や公開方法、公開の基準等が定められることがあります。

公共データの公開に際しては、以下の点が法的・実務上の重要論点となります。

  1. 公開対象データの範囲: 基本法は「公共データ」を広く定義していますが、全てのデータが公開対象となるわけではありません。個人情報、法人等の営業秘密、国の安全に関わる情報など、非公開が相当とされる情報は除外されます(基本法第10条)。どの情報が公開すべきデータであり、どの情報が除外されるかの判断は、個別具体的な状況に応じて慎重に行う必要があります。特に、個人情報保護法や情報公開条例等との関係性において、非公開情報の範囲を適切に画する必要があります。
  2. 匿名加工情報と非識別加工情報: 個人情報を含むデータをオープンデータとして公開する場合、個人情報保護法に定める匿名加工情報または非識別加工情報への加工が必要となる場合があります。これらの情報は個人情報には該当しないものの、加工方法や利用・提供方法には法的制約があり、適切な処理が求められます。
  3. 著作権その他の知的財産権: 公共データの中には、地図情報や統計情報など、著作権その他の知的財産権の対象となりうるものが含まれます。これらのデータをオープンデータとして提供する際には、権利処理が必要となるか、あるいは、著作権等の権利を放棄(パブリックドメイン化)するか、利用許諾を行う必要があります。一般的には、公共データの利用を促進するため、公共データについて著作権を行使しない方針を採用することが推奨されています。
  4. データ品質と形式: 二次利用可能な形での提供には、機械判読に適した形式(CSV, JSON等)での提供や、標準化された形式での提供が含まれます。データの品質(正確性、網羅性、最新性等)も利用価値に直結しますが、公開されたデータの誤りや不備に起因する利用者の損害に対する公共機関の責任については、利用規約における免責条項の有効性などが論点となり得ます。
  5. 利用規約: オープンデータの利用を促進するためには、利用規約を明確に定めることが重要です。利用規約は、利用者が遵守すべき事項(出典表示、禁止事項等)や、公共機関側の免責事項などを規定します。標準的なオープンデータライセンスモデル(例: 政府標準利用規約)の採用が推奨されています。

弁護士実務への影響と倫理的考慮

弁護士は、公共機関や民間企業からの相談において、これらの法的論点に対応する必要があります。例えば、公共機関からの相談であれば、どのようなデータを公開すべきか、個人情報や営業秘密をどのように保護しつつデータを公開するか、利用規約をどのように設計すべきか、といった助言が求められます。民間企業からの相談であれば、公開された公共データをどのように利用できるか、利用規約の解釈、データ利用に伴う法的リスクに関する検討などが主な内容となります。

また、オープンデータは、行政の透明性向上や国民への説明責任を果たす手段としても重要です。公共機関がデータを適切に公開・活用することは、単なる法的義務の履行に留まらず、民主主義的な観点からの倫理的な要請でもあります。弁護士は、法的側面からの支援に加え、データ公開の目的や社会的影響についても考慮し、倫理的な観点からの助言を行うことも期待されます。

まとめ

官民データ活用推進基本法は、日本のオープンデータ推進の重要な柱であり、公共部門にデータの公開・活用促進に関する責務・努力義務を課しています。これにより、公共データの利用が促進される一方で、データ公開の範囲、個人情報保護、知的財産権、データ品質、利用規約など、多岐にわたる法的課題が生じます。弁護士は、これらの法的論点を深く理解し、関連する条例やガイドライン、判例、行政解釈等の最新情報を継続的に把握することで、クライアントに対し適切かつ実効性のある法的支援を提供することが可能となります。

オープンデータの分野は発展途上であり、新たな技術や利用形態の出現に伴い、今後も様々な法的・倫理的課題が顕在化することが予想されます。本サイトでは、引き続き最新の情報を提供し、皆様の実務の一助となることを目指してまいります。